たぶん鮮血を目にしたからかもしれない


　　　体内に何かが取り込まれる様な
　　　不思議な感覚を得る
　　　それは形のない『気』のような何か

　　　気持ちが奮い立たち闘志が漲った

　　　「お前ら絶対許さない！」
　
　　　今まで怯えながら平伏していた女が
　　　こんな荒事を吐き出すとは
　　　思いもしなかったのであろう

　　　一瞬にして場が鎮まった


　　　殺すなら殺せばいい
　　　こちらも力の限り抵抗し抗い
　　　返り討ちにしてやる
　　　武道の心得など何も無いが

　　　やってやる

　　　その気迫に押されたのか
　　　男達はじりじりと後ずさる
　　　
　　　「あっ…　うっ…！」

　　　突然、意識が遠のく感覚に襲われる
　　　視界が霞み目眩のように揺らぐ
　　　身を支える力は崩れ膝から倒れ込んだ
　　　首の傷が致命傷なのか？
　　　折角の反撃のチャンスだというのに…

　　　悔しい
　　　このまま殺されるのか…
　　　
　　　あぁ…


　　　意識は完全に失ってしまった




　　　＊＊＊＊






　　　「この流浪者め！」

　　　女が崩れ去り緊迫は峠を越した
　　　憤慨する男達は口々に暴言を吐き捨て
　　　容赦なく女を蹴り上げる
　　　ゴホゴホと体内の空気は口から漏れるが
　　　意識を取り戻す様子はない

　　　「止めないか野郎共！」　

　　　己が一瞬でも怯んだ事が忌々しいのか
　　　頭領の静止に誰一人従わず男達の攻撃は続く
　　　男達から守るように女の腕を取ろうとすれば
　　　突然強い磁界が女を軸に発生した

　　　「うわっ！？」

　　　伸ばした手は空を掴み
　　　数メートル先まで弾き跳ばされた
　　　
　　　
　　　「…頭領！　ご無事か？！！」
　　　　なんという力　やはり曲者に違いない

　　　一斉に刀を抜き横たわる女に構える

　　　ゴォーーーーーッ

　　　地響きのような轟音と共に
　　　すべての鋼は男達の手からあえなく攫われ
　　　天井に吸い込まれるように刺さった
　　
　　　「ど…どういうことだ？！　これは！！」


　　　ーーー　神子を傷つけるもの…　ーーー
　　　　　　　　　容赦せぬぞ


　　　人の物とは思えぬ言の葉が屋敷中に響き渡る

　　　「！！！　も…　物の怪だ！！」

　　　騒ぎ立て右往左往する人々を嘲笑うように
　　　風が激しく鳴く
　　　嵐の様なつむじ風が起こり室内で籠る
　　　当然ながら調度品や御簾は宙を舞い
　　　人々は次々と弾き跳ばされた

　　　「こ、この女がこの根源だ！」

　　　一人の男が倒れている女へ棍棒を振り上げる


　　　ーーー　神子を傷つけるか　ーー

　　　「うぅわぁーーーっ！」

　　　耳障りな音を発しながら
　　　有り得ない方向に曲がる腕と足
　　　その発狂の先に顔が１８０捻られ嘔吐物を垂れ流した

　　　悲鳴や絶叫が屋敷内を轟かせたが
　　　気を失った女には知る由もなかった








　　　～～～　独り言　～～～
　　　
　　　修羅の時間